STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第六巻 儚き夢の答え - 第四章 15.真実の断片
 住民達が広場になだれ込んできたのとほぼ時を同じくして、あの場から離脱していた老人……知識の神ホーセイは、自身の作り出した異空間《ハザマ》にて、ボロ切れのようになった男を見下ろしていた。

「無茶をする」

 呆れを含んだ台詞は、しかしそれだけでは収まりきらない、複雑な感情も込められていた。男からの反応は、無い。

「しかし、まさかこんな形で《バグ》が再来するとはな……。かつてのものとまるで違う。どこか統制されている」

 ホーセイはしばらくふよふよと空間を漂っていたが、ふと外のことが気になって、スッと指を動かし空間に窓を作る。出来上がった窓には、フィロットの広場の様子が映し出されていた。その中で、不安そうな表情を浮かべている青年と少女の姿を認め、彼は苦笑を浮かべる。

「やれやれ、無事だと一言言ってやれれば、それにこしたことはないのだがのう。さすがに、このまま帰すことは出来まいて」

 そう言って、彼は男を……ステントラを見下ろす。力を使った影響か、ゴーグルが砕けて素顔をさらしている青年の頭を、軽くはたく。

「ほれ、何泣きそうな顔しとるんじゃ、馬鹿モンが……ゆっくり休め」

 最後に、ホーセイは回収したステントラを別の空間へと送り、自身の持ち場へと帰っていった。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「ふーむッ!! 何やら体がすっきり万全、すこぶる調子がよいなぁフィリーナッ!!」
「それはー、確かに同感〜ですわねぇ〜お兄様―」
「それはよかった」

 クウォンツは、彼の周りをはしゃぎ回る二人の子どもの頭を撫でる。ヴィンスと同じように暗示をかけられていたという彼らも、フィロットの魔術師達の手によってほぼ完璧に解呪がなされていた。
 今の彼らは、その両手を血に染めながらも、その罪に向き合える意志を持っていた。本来なら《ガレアン》に引き渡して判決を待つものだが、彼らはその特殊な力ゆえ、クウォンツと共闘した町の人間達によって、彼に預けられることが決まったのだ。

「ファルスもフィリーナも、もうちょっと落ち着かないと。そのテンションで魔族の子たちに話しかけたら、さすがに逃げられるよ?」
「何ッ!? それは一大事二大事さん……」
「既出のネタは〜さむーいだけーですのよ〜、もうちょ〜っと、レパートリーを増やしましょうねーお兄様〜」
「……ふっ、ふふふふふ、フィリーナッ!! その言葉僕への挑戦状へと受け取ったッ!! よろしいではまず手始めに、クー兄上を爆笑させる一言をばッ!!」
「あはははは〜」
「まだ何も言っていないのに乾いた笑いで出迎えられてしまったぞッ!? しまったこの展開は予想だにしていなかった、不覚ッ!!」
「クーお兄様は〜、そこ無視しちゃっていいーのですよ〜?」
「痛烈な一言だねフィッリーィナァアアアッ!!」

 騒がしい彼らは、変人の町を離れ旅に出る。
 竪琴を持った吟遊詩人と、彼の傍らで笛を吹く兄妹の話は、つかの間人々の噂の種となり、国を巡る。唯一、彼らの旅の始まりとなった町にだけ、届かないまま……。

「……」

 最後に、先に丘の向こうへ駆けていった兄妹を温かい眼差しで見つめていたクウォンツは、そっと振り返って眼下の町を見下ろす。

「今度は、何も奪わせる気は、無いから」

 静かな宣誓。強く両手を握りしめながら、クウォンツはそっと目を伏せ、背後から聞こえてきた兄妹の急かす声に苦笑を浮かべ、今度こそその場を離れていった。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 包帯を巻いた手でフライパンを握っていたガイルは、無意識のうちに作ってしまった三人目の食事を見て、無言のままに立ち尽くす。やがて彼はそれを別の皿に移し替え、隣の居間で昼食を待つ少女に気取られないうちに、汚れた食器を片付ける。
 フォークとナイフで遊んでいるのだろう彼女の声が聞こえてきたのは、そのときだった。

「ステントラさん、どこ行っちゃったんでしょうねー」

 のんびりしつつ、どこか覇気のない声。

「……今までだって、ふらっといなくなった時はあっただろ」
「でも、行き先はちゃんと教えてくれてましたもん」

 盛りつけを終えた皿を盆に載せ、居間へと向かう。ダイニングテーブルで銀器を持ちながら、ティルーナは頬を膨らませてテーブルにあごを預けていた。

「帰ってきますよね?」
「来るだろ。こなかったら酒と銃すっきり処分してやる」
「あはは〜、ホントにやる気だったらもうやってるじゃないですか〜」

 ティルーナは、明らかに二人分の量が盛られた自分の皿を見下ろしつつ、それについて何も言わずに食事を始める。彼女が黙々と食べ進めるのを見ながら、ガイルも適当に肉を切り分け、口へ運んだ。
 時を告げる時計台の鐘の音が、町へ響いて、広がっていった。