□ 悪役たちと小さな少女 - 4)たすけて ウィンは、管理人室にある換気用の七十センチ四方の小窓から、慣れた様子で侵入した。 『よくここから当時の管理人さんをからかったんだよ』と、いたずらっ子のように笑いながら言っていた父。 『ビスケットもらったんだけど、一緒に食べるかい?』と、バスケットを抱えて困ったように言ってきた父。 『今日は早めに仕事が終わるから、一緒に遊べるよ』と、自分よりも嬉しそうに、下手っぴな鼻歌を歌っていた父。 『ゴメンね、しばらく・・・・『仕事』で会えなくなるんだ』と、すごく悲しそうに自分に告げていった父。 それでも。 『仕事』だと分かっていたけれど。 会いたくて。 「パパぁっ!」 母とベテットが夜中に言っていた、父の『仕事場』。 イグールに会うために父と何度も来たことがあるから、道に迷う事なんて無い。 けど、父には会えなくて。 昨日はもう少しのところで、ベテットに捕まって。 (ママ、すごく、怒ってた) ベテットによって家へ帰されてから、ウィンは母にぶたれた。 さらに父のことを話そうとすれば、ものすごく怖い目で睨まれた。 (ママ、パパのこと嫌いになっちゃったのかな) ピタッと足が止まる。しばらくして、ぶんぶんと首を振った。 そんなこと、あるわけない。 あるわけない、あるわけない、あるわけない! そのことを考えていたせいで、気づかなかった。 「いたっ」 ボスッと、勢いよく何かにぶつかる。左右から腕が伸びてきて、後ろによろめいたウィンを支えた。 その感覚が、なつかしく思えて。 「パパ!?」 「・・・・おい、この小娘はなんだ」 ・・・・全くの別人だった。 父よりも背は低めだが、やけにがっしりしていて、彫りの深い顔つきをしている。 ウィンには、この男が町を守る大人たちよりも、町の裏路地にいるけんかっ早い乱暴な男たちに近く見えた。 「・・・・ノベリオ=アーロズの娘では? 何度か監獄をうろついているのを保護されていたとか」 「アーロズの・・・・」 「お、おじちゃん、パパのこと知ってるの?」 昨日出会った三人の『おじちゃん』は、おもしろくて、温かくて、優しかった。 だから、少しだけ希望を持ってしまった。 返されたのは、温かい言葉ではなく・・・・。 「ちょうどいい、人数が足りなかったところだ。・・・・連れて行け」 冷たく、まるで鋭利なナイフのごとき宣告。 ウィンは目を見開き、眼前に迫る白い布を信じられない思いで見つめていた。 ノベリオが『ガレアン』メンバーに連れて行かれた後、残された三人は少し、考えていた。 「・・・・な〜ぁ〜」 「なんッスか、ボス」 「・・・・俺らって、こんな牢屋でおとなしくしてるタマだったっけか?」 「知りませんわよ、んなこと」 そしてまた、会話は途切れる。 一体、どれほど時間が過ぎたのか。 見慣れた顔が、飛び出してきた。 「おいぃいいいいいっっ!!」 「ぅのぅわあああああっっっ!? ってあんたイグールサマ!? もう警棒はなぁっし! ていうか何用?」 「おい、ノベリオはどうした」 「え、ノベリオさんならさっきまた・・・・」 「ド畜生がっ!」 ヒユの言葉を最後まで聞かず、イグールは叫びながら壁を思い切り殴る。 「うぉうっ!? ちょ、何々どーしたの?」 「あんにゃろう、あんにゃろう・・・・っ」 「どーしたって聞いてんだろがっ」 「るせぇよ、てめーらにゃ関係ねーだろ!?」 イグールが絶叫する。 しかし。 「へっ、関係ねぇだぁ? バッカお前、もー嬢ちゃんともお知り合いなんだぜ? ノベリオくんとはお友達っと」 「そーそ、関係ないはないでしょーが」 「うんうん、ということで、サクッとお前さんがキレてる理由を教えてくださいな?」 ここまでシリアスな空気を漂わせておいて、ずいぶん軽い口調である。 調子を狂わされたイグールは、やや脱力しながら言った。 「・・・・ノベリオが、殺されるかもしれない」 「・・・・はい?」 「あいつらが、でっち上げた証拠と証言と、その権力を使って、あいつを最凶悪犯罪者として処刑すると言ってやがんだよ」 「そんな、いきなり? そ〜んなぁ、一日二日で処刑なんてバッカら」 「本気だ。現に、『それ用の部屋』も準備が完了していた」 三人の体が固まる。 舌だけなんとかくるくる回るが、カピカピに乾いてしまっているようでうまく声にすることができない。 そのとき。 「い、イグールさん!」 「ベテット? お前今日は町の巡回・・・・」 「先輩に言って降ろさせてもらいました。それより、ウィンちゃんが」 四人はそろって首をかしげる。どうしてここで、ウィンが出てくる? 「・・・・朝から、家にいなくて・・・・あの、早朝の見回りしてた同僚が帰ってくるとき、その子っぽいのが 監獄の管理人室へ入っていくのを見たって」 「・・・・ウィンも、探さなくてはいけないのか」 よりによって、とつぶやきつつ、イグールはドーセインたちに背を向ける。 「ちょいと」 「・・・・関係あるっていったって、お前ら牢屋の中でどーやって行動するってんだよ」 そう言い捨てて、イグールとベテットは走り去った。 「・・・・『牢屋の中で』・・・・」 ドーセインはポツリと、イグールが言っていたことを繰り返す。 「なぁ、ヒユ、ギオ。やっぱ俺たちゃ・・・・」 どさりと、袋のようなものが床に投げ出される。 否、それは人だった。 「・・・・罪人ノベリオ=アーロズ、これより最終尋問、および処刑を行う・・・・とな」 法など関係なく、ただ己の意のままに。 楽しげに、そう宣言してから、男は床に転がるノベリオを蹴りつけた。 「っ・・・・」 「さて、今日はあまり時間はとらせんよ。・・・・それ」 両手足を縛られ、腰と首に鎖を巻く。鎖は、部屋の壁に埋め込まれた金具に留められた。 『拷問部屋』。 ノベリオは四回目にして、その恐ろしい光景に慣れきってしまっていた。 しかし。 「アーロズよ。お前の最後、イグールやベテットなどよりもふさわしい者に見送ってもらえるぞ」 「・・・・?」 そういって、ノベリオは取り巻きの一人がそっと椅子に座らせた人物を見た瞬間に飛び出そうとした。 「ウィン!? バカな、どうしてっ!?」 「ふ、お前が牢にぶちこまれてからは何度もお前を捜しに来ていたらしいがな?」 男はつまらなさそうにノベリオとウィンを見比べると、ふんと鼻を鳴らす。 「まったく、お前に似てバカな娘だ。他のメンバーや母親に止められていたにもかかわらず」 「・・・・っ」 ノベリオが歯ぎしりする。 男はウィンを運んでいた取り巻きを呼びつけると、何かを耳打ちした。 取り巻きは一瞬だけ苦しげに顔をゆがめたが、すぐに無表情へ戻ってウィンに近づいた。 「っウィンに何を!?」 「何もしない。だが、そうだな・・・・お前がさっさと罪を認めなかったのが悪い、と、簡単に言っておくか」 「なっ」 「・・・・んぅ? ここ、どぉこ?」 取り巻きに揺さぶられ、ウィンはぼんやりと目を開ける。 軽く目をこすって辺りを見回す。 そして、見付けた、あの氷のような目の男を挟んだ向こうにいたのは。 「・・・・パパっ!」 叫んで、駆け出そうとする。 だが、その体は簡単に、取り巻きによって押さえつけられた。 「なにするのぉ! 離してってば!」 取り巻きたちは無言のまま、ウィンを椅子に縛りつける。 「・・・・さて、準備は整ったな? では始めるぞ、アーロズ」 ウィンの見張りとして残った取り巻き以外が、それぞれ拷問道具を持って男の隣に並ぶ。 男に睨まれた取り巻きの一人が、のそのそとした足取りでノベリオに近づいていく。 手に持っているものは、杖。 先端には立方体の形をしたおもりがのせられており、軽く振っただけでブォンッと音がした。 あれで殴られればどうなるか、幼いウィンであっても容易に想像できる。 今まさに、目の前で為されようとしていることを理解したウィンは叫んだ。 「ダメっパパぁ!」 ノベリオは娘の叫びを聞き、強く目を閉じる。 取り巻きが、ノベリオの前で杖を構える。 大きく振り上げられ、止まり、そして・・・・。 『あああー! 聞こえてらっしゃいますでぇしょーかぁっっっ!!!?』 廊下側のスピーカーを通して、大音量のだみ声が響き渡った。 ぐらりと取り巻きがよろめいて、杖はノベリオをかすりもせずに床へめり込む。 「なぁ、なん、だ・・・・っ!?」 男も耳を押さえたまま、倒れそうになるのを堪えて問う。 だが、ここにいる人間が答えられるわけもなく・・・・。 『ボスうるっせぇんだよっつか何で音量最大なんスか!? なんかもう耳ボーってして何も聞こえねーよ自分の声すらも!!』 『てめぇもるせぇだろーがぁ!!!! っておうわ今度ボーッつかギィーンってギー』 『うわうわもう放送どころじゃありませんわ全くもう!!』 ガザガザガザッ! とすさまじいノイズが響く。 何とか動けたらしい取り巻きの一人が、よろよろと頼りない足取りで拷問部屋の扉を、少しだけ開ける。 「う、うああああっっ」 「どうした!」 頭を押さえたまま、他の取り巻きも外を見る。そして絶句した。 近くを歩いていたらしい『ガレアン』メンバーたちが、ことごとく気絶している。 まさに死屍累々、地獄絵図。ただしかなり静か。 拷問部屋には直接スピーカーが取り付けられていなかったため、廊下側の音が反響するだけに留まったようだった。 だがそれなら、等間隔にスピーカーが設置されている廊下で今の放送を聞いていたなら? ・・・・自分たちも、こうなっていたはずである。 「「・・・・っ」」 ゾッとして、取り巻き二人は扉を閉めた。またあの特大音量放送が流れて拷問部屋に直接響いてくれば、一秒もせずに 意識が飛ぶだろう。 「くそ、い、一体どうなって・・・・」 男が顔を真っ赤にしたままつぶやいた瞬間。 「「「おおおおおーじゃましまっっっっっすうぅうう!!!」」」 「んぁ?」 拷問部屋の扉が開け放たれ、『彼ら』が飛び込んできた。 時は、おおよそ二十分ほどさかのぼる。 「ふぅ、面倒くさいですし、衣食住がきっちりしてますから、極刑と 宣告されるまではあんまり出たくなかったのですけれど」 もう女言葉に関してはどうでもよくなってきたギオが、よっこらしょといいながら格子に手をかける。 ギオの筋肉が盛り上がり、格子は温められたバターのようにぐにゃりと曲がった。 「いよっ、ギオさんナーイス!」 「たっしかに、ココ居心地はよかったからなぁ。牢から出るのは簡単なんだけど」 ヒユはため息をつきながら、右手の上で左手をくるくると回し始める。 さっさと牢から出たギオが、ドーセインの牢の格子をぐんにゃりと変形させた瞬間、 ヒユの右手から透明な糸が何本も飛び出してきた。 蛍光灯の明かりできらめく糸は、スルスルッと格子に巻きつき、あっという間に切断してしまった。 「・・・・これ、動物とか動いてるものにも有効だったらよかったのになぁ」 「ぶつくさ言ってねぇで、さっさとノベリオくん探すぞ〜。あと嬢ちゃんも」 「でもボス、ここらへんどこがどう繋がってるのか、まるきりわかりませんわよ?」 「・・・・・・・・とりあえず、・・・・イグールが走ってった方へ行くぜぇええええっっ!」 冷や汗を垂らしながら、ドーセインはさっさと走り出す。丸々と太っている割に結構素早いので、出遅れたギオとヒユは 見失わないよう慌てて追いかける。 幸運なことに見回りのメンバーがいなかったので、三人は簡単に地下二階を抜け出すことができた。 鼻歌なんぞ歌いながら、一気に地上一階まで階段を駆け上がる。 そして、ばったり『ガレアン』メンバーと出くわした。 「「・・・・・・・」」 先に理性を取り戻したのは、若いメンバーの方。 「う、ぅわき緊急事態最凶悪犯三名脱ご・・・・」 「すみませんわねちょっと黙っててくださる?」 ゴガンッ ギオが笑顔で殴打、青年は即気絶した。 しかし、青年の叫びは廊下中に響き渡り、今度は奥からぞろぞろと警棒を構えたメンバーたちが。 「貴様らぁああ〜!!」 「うわぉこえぇ。集団相手はヒユくんよろっ!」 「ちょっとボス、それなんか俺よろけたみたいじゃないスか」 言いつつ、ヒユはビュンビュンと両手を振り始めた。 ドーセインとギオは、彼からすぐに遠ざかる。ついでに十割中五分だけ残っていた良心で、気絶している青年メンバーを 安全地帯へ引きずる。 「へっ、んなブンブン腕振り回したって届くわけねーだろがっ」 しかしメンバーたちはどう猛な笑みを浮かべ、じりじりとヒユににじり寄ってきた。 「バカかぁお前ら。俺別に殴り合いするわけじゃねーっつの!」 な、とメンバーたちの目が点になる。 ヒユの両手から現れた糸が、彼を中心にまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされたのだ。 糸はメンバーたちに絡みつき、自由を奪う。 「んだ、こりゃあっ!?」 「というわけで、グッナイ〜」 ヒユの後ろから飛び出したギオとドーセインが、すかさずとどめを刺していく。 しかし、その際の捨て台詞はもうお決まり。 「んにゃろぉおおおお俺こんなボールとチビとオカマにやられんのかああああああ」 「「「んだとこの駄キャラぁあああっっっ!!」」」 ・・・・その後ご丁寧にヒユの糸で逆さまの状態で縛り上げられ、ドーセインとギオにリンチされた『ガレアン』メンバー バーンズ=イルガ(三十三歳・独身)は救出されたあと、仲間たちに無言で肩を叩かれたという。 さて、そのままダッシュで廊下を駆け抜けようとしたドーセインであったが。 「おいオヤジ! あんた、あの牢から脱獄したのか!?」 「んぁ?」 振り返ってみれば、それぞれの牢にぶち込まれている罪人たちが目をきらめかせて三人を見つめている。 「なぁなぁ〜俺たちも出してくれよぉ〜、頼むからさぁ〜」 「あ、あれ? ボスぅううう!! 来てくれたんスかぁ! あっ、ギオさんもヒユの野郎もいるぅうう!!」 「ちょっ待ててめぇなんで俺だけ『野郎』なんだぁ!?」 「ひぃすんませんっしたボケヒユぅうううう!!!」 「てめぇ殺す」 「どぇええええええっっっ!?」 三人の声を聞きつけ、ひょっこり顔をのぞかせた盗賊団の男を筆頭に、わらわらと他の団員たちが顔を見せた。 一週間程度とはいえ、離ればなれになっていた部下たちの顔を見てドーセインはぶわっと涙した。 「てってめぇらあああああ!!」 「ボス、ボス、台詞と声と顔が超ミスマッチッス。少女漫画チックな目で噴水涙はいいッスけど、いや良くない」 「んだとコルァアアアアアアッッ!?」 「ぁああ懐かしいボスの一喝ぅうううう!!」 なぜか異様に盛り上がる盗賊たち。 そして、感動の再会もそこそこにドーセインは怒鳴り始めた。 「おっしゃてめぇらぁああっ! これから一気に『ガレアン』ぶっ飛ばすぜぇえオラ反対のヤツぁ絶叫してぇええええ!!!?」 ・・・・シーン・・・・ 「んじゃ賛成バンザイいっちょやったれってヤツぁ拍手喝采!!!!」 バチバチバチバチバチバチバチィイイイッッ!!! いよぉボスそのイミフさ懐かしぃいいいい! もう一発お願いしまっすっっ!! そんな声が、監獄中に響き渡る。 ドーセインはしばしその感覚に酔いしれ、ギオにスパンと頭をはたかれてようやく行動を再開した。 ギオはその怪力で、ヒユは糸を使って盗賊たちの牢を破壊していく。 その間、特にこれといった能力を持たないドーセインは別の罪人たちを訪ねまわっていた。 「なぁあんたボスなのかぁ? 頼む、俺たちも仲間に入れてくれぇ」 「んじゃぁなぁ・・・・どんっなことがあってもこの俺に絶対服従誓えるっつーんならOKだすぜぇ?」 「ぜ、絶対服従?」 「あ、だいじょぶだいじょぶ、そこらへん俺らかなりゆるいから。けど、さすがに裏切ったりした日はなぁ・・・・ 俺ら、チョーしつこいから」 牢屋から出てグルグル腕を回す体操をしている盗賊団員Aが、ドーセインの後ろからにこやかに忠告する。 少年らしさが若干残ったその団員の笑顔から、なんともいえない空気を感じた罪人たちは (あ、コレ言うとおりにしないとこのボールよか恐いカモ) 「お願いします従いますだからこっから出してくださいっ!!」 「おっしゃああああよくいったぁ!! うらてめぇら!! このゴールディンシルーバードッオオオー」 「うぜぇっての」 「誰だぁあと一音ってトコで邪魔したヤツぁああああああっっ!!? 血祭りじゃああああ」 「うぜぇっつってんだろこの脳たりん!!!」 ・・・・かくして、ドーセイン盗賊団はさらに仲間をアメーバのごとく増やしていき、鉢合わせた『ガレアン』メンバーたちから 警棒や剣、杖といった諸々の武器を強奪していった。 罪人たちの集団脱獄はあっという間に本部じゅうへ広まった。 『五芒星』は各部隊に監獄周囲の警備を強化、そのうち三分の一を制圧に向かわせた。 だが、それよりも早く。 彼らは到達した。 「おぅい? ヒユ、ギオ、ここぁ一体どこだぁ?」 間延びした声で二人に聞くドーセインは、盗賊団と『ガレアン』たちの正面衝突を逃れるために 飛び込んだ小部屋を眺めた。 あちこちに見たこともない機材が並び、小さな机が二つ置かれている。 その上にはヘッドホンやマイクといった機器が並べられており、扉を見てみれば『放送室』と書かれた紙が貼り付けられていた。 「放送室・・・・ああ、こっからめちゃくちゃな命令してみれば、『ガレアン』どもを混乱させることができるかもしれねぇ」 「あら、それはそれは、楽ちんですこと」 「おっしゃ、んなら俺がいっちょやったるぜぇ!」 ドーセインは言うなり、どっかと椅子に座るとマイクを握りしめた。 それを見たヒユとギオは、慌ててマイクを奪おうとする。 「あっ、ボスずるいッス俺もやりてぇんだよ!」 「そうですわわたくしにもやらせてくださいませ!」 「ギオてめぇもはや男の意識ねぇだろ? ぜってーねぇだろ、なぁキモいんだよ!?」 どたばたとマイクの取り合いをしていた三人であったが、その間にヒユの肘がボリューム調整のスイッチを最大にまで してしまったり、ギオの腰が監獄どころか本部との通信回線のスイッチをもONにしてしまったことに気づかなかった。 最後、結局ドーセインが第一声をかますことに決定し(殴り合いにて)、意気揚々とマイクのスイッチをいれてみれば・・・・。 『あああー! 聞こえてらっしゃいますでぇしょーかぁっっっ!!!?』 「ぉおおおうぅぁあああわあああああああっっっ!!!!?」 「ううううっっっるっせええええええええっっっ!!!」 特大音量放送が、『ガレアン』本部じゅうへ響き渡ったのだった。 この放送にて、各部隊からの連絡を会議室で待っていた『五芒星』の者たちも卒倒、食堂でのんびりしていたメンバーや 調理係までもことごとく気絶、 「ちょ、これ別の意味で効果アリってなってんじゃね?」 まだ頭がぐわんぐわんといっているが、スピーカーのない室内で直接放送を聞くことを逃れた三人は、 かろうじて意識を手放さなかった。 そして、そろーっと放送室の扉を開け、外を見てみる。盗賊団たちや罪人、メンバーたちがことごとく気絶している。 まさに死屍累々、地獄絵図。ただしかなり静か。 「「「・・・・・・・・」」」 三人はその光景を見て、しばし沈黙し。 「ぅおおおっっしゃ面倒くせぇのいなくなったし二人さがすぞー・・・・」 「「ぉおー・・・・」」 最後だけテンションが低かったのは、お気になさらず。 とりあえず三人は、積み重なった『ガレアン』や盗賊たちの体をまたいで、廊下の奥へ進んでいった。 ・・・・この際、何度か三人に踏まれて「うヴォっ」といった者もいたが、三人は聞かなかったことにした。 「・・・・にしても、監獄って広ぇのな」 「やっぱもう一つ上の階じゃねー?」 「いえ、イグールの言っていたことが本当に為されようとしているのなら、 地下の方が可能性がありそうではありませんこと?」 気絶している人間をかき分けながら進んでいくと、三人は妙に薄暗い廊下に出た。 とりあえず倒れている人はいるものの、他の通路に比べればかなり人通りは少ない。 「んだ、ここぁ・・・・」 三人の、盗賊としてのカンがベルを鳴らす。 ここだ、と。 「・・・・ボス、あの扉」 無意識のうちに声を潜め、ヒユは人差し指で指し示す。 他の扉と同じように木でできてはいるが、周りにいくつもの鋲が打ち込まれている。 ドアノブも、金色のメッキではなく、鉄がむき出しになっていた。 そして、扉に小さく、本当に小さく刻まれていた文字。 『拷問部屋 〜 許可なき者の入室を拒否』 「いよぅし」 ドーセインはニヤリと笑い、二人に向かって握り拳を見せた。 「「「おおおおおーじゃましまっっっっっすうぅうう!!!」」」 ドガゴンッ、とすさまじい音を立てて扉が吹っ飛んだ。 ポカンとした顔で男と取り巻き、ノベリオとウィンが見つめる先には・・・・。 「おおおおおおおいいいいぃいっっっ!? 何々今チョーいいとこなのになんっっで俺ら詰まっちゃってんのぉおお!?」 「ぼぼぼボスのケツでけぇのが原因ッスよぉお!! だって俺腹が・・・・あ、ボス動かないでぐぇええええええ」 「ちょボスぅううう俺背骨ボキャボキャいってなんかグリグリグリグリ・・・・」 「あ、ギオくん標準語に戻った。ってちげええええぇぇぇぇぇ!!!」 その後、一分ほど押したり引いたりを繰り返し、三人はようやく拷問部屋へ入ることができた。 「げぇええ・・・・し、死ぬぅう」 「な、なん、だお前ら・・・・ん、その、札は」 男は三人の囚人服に取り付けられていたナンバーを見て、血相を変える。 「最凶悪犯ランク・・・・お、お前たちが例の盗賊団か・・・・っ」 その言葉に、三人はフッと笑う。 ・・・・ここでなぜか、頭上よりスポットライトが。 「おぅともよ。悪事は大好き、されど、人は殺さず」 「金は大好き、されど、人は殺さず」 「宝は大好き、されど、人は殺さず〜」 「人間の欲望ぜーっんぶ詰め込んだヤツらのお集まりぃっっ!」 ビシビシビシィイイッ! と、何かのポーズが決まる。 「ゴーディオーンシルゥウヴァスペッシャァル盗賊団頭領、ドーセインサマじゃああああっっっ!!」 「お、同じく、盗賊団右翼、糸使いヒユ! ・・・・これでいいのかよ」 「同じく、盗賊団左翼、剛力ギオ! ・・・・さぁ、第一巻ではまったくやりませんでしたけれど、きっと気まぐれなんでしょうねぇ」 「そこぉおおお!!! 制作現場ぶっちゃけんじゃねぇええ!! テンパってんだよ色々とよぉっ!!?」 ツッコミを終えたドーセインは、ゴホンごほんと咳払いをした後。 「とっ、とにかぁああく、現在フリーで根無し草の俺様なので、気に入らねーことはとこっとん邪魔させていただくっっっ!! つーことでノベリオくんと嬢ちゃん離せやぁあああっっっ!」 どごぉおおおお、と背景で爆破が起こり、スピーカーから爆発音が流れてくる。 ちなみに、そこら辺の特撮的扱いは気にせずに。 男は最初、ぼう然とその場に立ちすくんでいたが。 「・・・・ふ、ふふ、ふふふふふ」 小さく、体を震わせて。 「ふ、は、あはははははははははははははははっっっ!!」 「ん、んだよコイツ気持ちワリぃ・・・・」 ドーセインも、その後ろに立っていた二人も見事に引いた。 そんな三人をチラチラと見ながら、男は笑い続ける。 「は、バカではないか・・・・お前たち、『ガレアン』である私が言うのもなんだがな、ここまで本部を混乱させておいて、 さっさと逃げもせずにこの、敵とも言える男を助けに来た、だと? ふ、ふふ、このまま素直に脱獄していれば 元通り盗賊として、また生活できただろうに・・・・」 そういうと、男はまた笑い出す。 「・・・・おぅい兄ちゃん、いやおっちゃん? 年齢近そーだからどーでもいいがな」 しかし、ドーセインは呆れ顔で、言う。 「俺ぁ盗賊だがよぉ、とにかく自分の欲求にチョ―――――素直なワケ。イエー美人大好き金大好き、美味いもん大好き 仲間大好き」 そこまで言って、ドーセインの顔に真剣な表情が浮かぶ。 「ノベリオくんが敵ぃ? 誰が決めたぁんなこたぁ。 あー確かに『ガレアン』だっつってたけどよぉ、助けた瞬間しょっぴかれるかもしれねーが、 俺もーノベリオくんも嬢ちゃんも仲間だっておもっちまってるもんよ」 「俺ら、超単純なんでぇ」 「目先のことしか考えられないんでぇ」 にんまりと、三人はドロドロの笑みを浮かべて 「「「とりあえず、目の前のゴタゴタ全部ぶっ飛ばしてスッキリさせてやらぁ」」」 言った瞬間。 ヒユの糸が、ギオの拳が、ドーセインのタックルが。 男と取り巻きたちを吹っ飛ばした。 |